メンバーコラム
kushamiメンバーが執筆するコラムです。
PRに関係あることもそうでないことも、徒然なるままに書き記しています。
2025.09.09
「地域」と「地方」を言葉から問い直す。【北海道・中標津町から】
「地域創生」と「地方創生」 二つの言葉はよく似ていて、ニュースや政策の文脈でも並んで使われることが多いものです。しかし私たちkushamiは、この言葉を使い分けることに強いこだわりを持っています。なぜなら、その選び方にこそ「地域をどう捉えているか」という姿勢が透けて見えるからです。 今回、私は地域づくり特化型PBL「ミチシロカ in 北海道中標津町」にプロジェクトメンバーとして参加しました。第6弾となるこのプログラムには全国から9名の学生が集まり、現地でのフィールドワークに挑戦しました。 学生たちを一人ひとり“社会人”として扱い、寝食をともにしながら「地域とは何か」「働くとは何か」を徹底的に考える7日間。その現場に立ち会う中で、改めて「地域」と「地方」という言葉の重みを考えさせられました。 「地方」という言葉から滲み出る“境界線” 東京で生活していると、「地方」という言葉を無意識のうちに“中心ではない土地”“自分から見て向こう側”といったニュアンスで用いてしまうことがあります。 その発言の背景には悪気がなくても、言葉の端々から表れる距離感は、確実に相手に伝わってしまいます。PRという仕事は、言葉を扱い、社会との関係をデザインする仕事です。だからこそ、「地方」と口にした瞬間に生まれる見えない境界線や、「地域」と呼んだ時に生まれる共感の広がりに敏感でなければなりません。 学生時代だからこそ失敗できる経験を、地域の場で ミチシロカのフィールドワークは、まさにその“境界線”を見つめ直す機会でした。 プログラムの根幹には「自分にとっての価値を見つける」「学生時代だからこそ失敗できる経験を、地域の場で」という思想が流れています。都市部で当たり前とされている価値観や働き方が、地域では必ずしも通用しない。むしろそこにこそ、未来につながる新しいロールモデルや学びがある。PRパーソンとして現場に身を置くと、そのギャップがストーリーの源泉であることを強く感じます。 PRは「伝える」仕事であると同時に、「翻訳する」仕事でもあります。地域に暮らす人々の声を社会に届けるには、外からの視点を持ちながらも、同じ目線に立って共に考える姿勢が欠かせません。言葉をどう紡ぐか、どのエピソードを拾い上げるかによって、受け手の認識や行動が大きく変わる。だからこそ私たちは、地域に寄り添い、自分ごととして関わるこ…
2025.08.06
なぜ勉強しないといけないのか?という文章を読んで
コップ一杯の水 ひと昔前にインターネットで話題になった文章を久々に見つけました。 色々なパターンが世の中に出回っていますが、大まかな内容は以下のとおりです。 なぜ勉強しないといけないのか? なんで勉強なんかしないといけないの?という子どもの質問に母は、机にコップを置いて答えた。 「算数」を学べばこの中に200mlの水があると数字で”見える”ようになる。 「理科」を学べばこの水は水素と酸素からできている事が知れる。 「社会」を学べばこの水がどこからきたのか?がわかりそして、世界にはこの綺麗な水を、飲む事ができない人たちがいることを知れる。 「美術」を学べばこの水の反射を綺麗に描く事ができるようになる。 「音楽」を学べば同じコップでも水の量で音を変えれることにも気づける。 「技術」を学べばこのコップがどんな素材でなぜ漏れないのかがわかる。 「保健体育」を学べばこの水が体にどれだけ大切なのか健康を支える命の正体が見えてくる。 「道徳」を学べばこの水を誰かと分け合うことの大切さを学べて、思いやりの心が育つ。 「国語」を学べば今私が話した”全部の意味”を“正しく”理解できるようになる。 「英語」を学べばこの話を世界の人と分かち合えるようになる。 「哲学」を学べばこの話に何の意味があるのか考えれるようになる。 勉強をする意味、一つひとつの物事を解像度高く捉えるためには、様々な視点や知識を持つことが重要であることがわかりやすく語られていて素敵な文章です。 PRやマーケティングに言い換えてみるとどうなる? この話の内容を、「PRとはなにか」「PRと広告、マーケティングとの違いは」「なぜPRが必要なのか」という質問に対する例え話として、活用してみたいと思います。 なぜPR視点が必要なのか? あるスタートアップ経営者が言った。「PRって結局、広告と何が違うんですか?」 私は、目の前のコップに水を注いで、こう答えました。 「広告」を打てばこの水をライトで照らして、たくさんの人の目を引く方法がわかる。“この水を飲んでください!”と、広く伝える手段だ。 「マーケティング」があればこの水を誰が、いつ、どんな風に欲しがるのかを分析し、どう売れば効果的か、その設計ができるようになる。 「セールスプロモーション」を使えば“今だけ限定”“2本目無料”といった動機付けで、手に取ってもらう仕掛けがつくれる…
2025.07.22
潜在ニーズの自覚(0→1)から、“世の中ゴト”への昇華(1→100)へ
「それ、それ!まさに欲しかったやつ!」 そんなふうに、誰かの提案に触れてはじめて、自分の“欲しかったもの”に気づく瞬間があります。 たとえば、日々忙しく過ごしているビジネスパーソンが、「人と話さなくても英語を学べるアプリ」のニュースを見て、「あ、これがあったら、シャイな自分でも他人と会話をせずに英会話スキルを学べるようになるかも」と思う。けれど、数分前まではそんなことを考えてもいなかった――。このように、人は往々にして、自分の「潜在的なニーズ」を自覚していないものです。 「ない」と思っていたものを、「ある」と示す マーケティングの世界では、「ニーズを掘り起こす」とよく言われます。しかし、その本質は「掘り起こす」というよりも、「気づかせる」「言語化してあげる」という行為に近いのではないでしょうか。 私たちkushamiでは、PRやコミュニケーションの設計をするとき、よくこの「潜在ニーズの自覚」を意識します。クライアントの商品やサービスの魅力を、そのまま並べるだけでは届かない。だからこそ、「この価値は、こういう人にとって、こんなふうに刺さるのでは?」という仮説を立て、ことばや見せ方を通して“気づきの装置”をデザインするのです。 潜在ニーズを「自分ごと」に変える言語化 言語化とは、単なる説明ではありません。 「これが、あなたの役に立つんです」と広告的に押しつけるのではなく、「これって、あなたの“あの瞬間”に必要なものかも」と、静かに差し出す。受け手の記憶や感情を刺激し、自分自身の中に“そのニーズ”があったことを思い出させる。そんなことばには、力があります。 たとえば、冒頭の「シャイな人でもできる英会話アプリ」ですが、さらに、こんなコピーを打ち出します。 TOEIC依存の英語から脱却し、AIとの対話を通じて英会話を学ぶ この一文に触れた人のなかには、「ああ、わたしが英語ができなかったのは、TOEICや受験のための“スコア英語=Reading重視の英語”ばっかりやっていたんだ」と、はじめて自覚する人がいるかもしれません。 「自分ごと」を「世の中ゴト」へ昇華させる ただし、PRとして本当に社会を動かすためには、「自分ごと」でとどまってはいけません。 一人の“気づき”を、いかに“共感”に広げていくか。そして、それが社会全体の関心や行動につながっていくか。 ここに、もうひとつの重要…
2025.07.17
「PR会社は必要か?」──今、PRパーソンに問われる存在意義
近年、クライアント企業のインハウスPRチーム強化や、AI/SaaS型PRツールの普及が進み、「プレスリリースは自社で出せるし、SNS投稿も自動化できる」「わざわざ外部に委託する必要は?」という声が高まっています。今回、PR会社視点で、これから存在し続ける意味、提供すべき価値について探ります。 「PRって、もう自社でできるよね?」 近年、大手企業を中心に、自社内でプレスリリースの作成・配信、メディアリレーションズ、SNS運用をすべて内製化しようという動きが加速しています。その背景には、AIやSaaS型のPRツールが急速に普及し、プレスリリースの自動生成や配信効果のリアルタイム分析が容易になったことがあります。 こうしたインハウスPRチームの体制構築強化と技術的効率化の進展を前提にすると、いわゆる従来型である“代理店”といわれるPR会社にとって「外部リソースを活用する価値は何か」「PR会社としてどのような差別化要素を提供すべきか」を改めて明確化する必要があります。 インハウス×エージェンシーのハイブリッド運用の実態 近年、多くの企業では日常的なプレスリリース配信やメディアリストの管理といったオペレーション業務を自社のインハウスPRチームに内製化しつつあります。しかし、ブランドの核となるストーリー設計や大規模キャンペーンの立案、さらに万が一の事態に備えた危機管理対応など、高度な専門性や幅広いネットワークが求められる領域については、外部のPR会社に委ねるハイブリッド運用が現在でも主流です。社内外のリソースを役割に応じて最適に使い分けることで、“効率”と“戦略性”の両立を図るのが現状です。 また、クライアント企業の多くは「自社のPR担当者は事業理解に優れているが、業界横断的なネットワークや最新ノウハウは外部パートナーに依存したい」というニーズを抱えています。加えて、従来の固定フィー型に加え、成果に応じた報酬モデルや手数料体系の柔軟化を求める声も増加しており、PR会社には単なる業務代行ではない、リスクを分かち合うパートナーシップが期待されています。 スタートアップ/地域企業に求められる“擬似インハウス”の役割 大手企業のハイブリッド運用モデルでは、インハウスチームと外部PR会社がそれぞれ得意領域を分担し、「効率×戦略性」の両立を実現しています。しかし、スタートアップや地域密着型…
2025.06.19
ファンづくりって上から目線?「ファンを”つくる”ではなく、ファンに”なる”」から始まる関係構築
「ファンを増やす」の視点って、上から目線じゃない? 企業のマーケティングでは、しばしば数値目標として「ファンを●●人に増やす」と掲げられます。 確かに、フォロワー数や顧客リストの数は分かりやすい成果指標です。しかし、そこにはいつの間にか“企業>>>>顧客”という「上から目線」構図が生まれ、言葉だけが空回りしてしまうことも少なくありません。もともと私自身もかつては良かれと思って、「どうやってもっと“認知”を広げようか」「どのキャンペーンが効果的か」といった議論に躍起になっていた時期がありました。 もちろん、それ自体が間違っているわけではありません。けれどその言葉の裏側には、知らず知らずのうちに、“届ける側”と“受け取る側”という非対称な関係性がにじんでしまうことがあります。 一方で、「自分たちが誰かのファンになる」──そんな姿勢に立ったとき、関係の構図はがらりと変わります。推しのことを深く知ろうとする。推しの言葉に耳を傾ける。推しが頑張っている姿を見て、応援したくなる。そのすべてが、「やさしい関係性」を築くための、自然な営みなのだと気づきます。 Public Relationsは「知ろうとすること」から始まる 私たちが考える“やさしいPR”とは、いわば「知ろうとすること」を大切にするPRです。押しつけるのではなく、無理に注目を集めるのでもなく、まずは相手を理解し、尊重し、好きになる。それは、相手を「ターゲット」として扱うのではなく、「一人の人」として向き合うということ。 企業が誰かの“推し”になるには努力が必要です。・その人が何を大切にしているかを知ること・対話を重ねること・時にはお金や時間をかけて応援すること でも、そのプロセスがあるからこそ、伝える言葉にも実感がこもります。熱が宿ります。PRは決して一方通行の伝達手段ではありません。人と人、企業と社会が、やさしさでつながっていくための関係構築の営みなのです。 kushamiは、「ファンを増やす」ことをゴールとは考えていません。むしろ、「企業が誰かのファンになる」ことこそが、真に対等で、持続可能な関係性のはじまりだと信じています。“推し”のことを真剣に知り、好きになり、応援する。そんな企業の姿勢が、最終的に「誰かに好きになってもらえる」きっかけを生むのだと思います。 やさしいPRは、特別なテクニックではありません。日…
2025.06.05
まちと医療と、やさしいPRの交差点で。
株式会社FLOCALに参画して考えた「Public Relations」のこれから あらためて、はじめまして。株式会社kushamiのPRプランナーの飯嶋健司です。このたび、地域医療に新たな選択肢を提示する株式会社FLOCALに、PRとして関わらせていただくことになりました。 FLOCALは、医療者が地域で働く「意志」と「選択肢」を支え、地域医療の持続可能性を再構築しようとする新しい仕組みです。彼らが立ち上げようとしているのは、単なる人材マッチングのシステムではありません。医療、経営、そして地域コミュニティを一体として考える「関係性のプラットフォーム」です。そして、私たちkushamiが取り組んできたのも、まさに“関係性の再設計”でした。FLOCALとの出会いは、その延長線上にあります。 地域医療という「課題」は、実はコミュニケーションの問題でもある。 「地方では医師が足りていない」「病院の経営が厳しい」── こうした話題を耳にしたことがある人も多いと思います。 でもその背景には、「医療者がなぜそこに行けないのか」「地域で医療をするってどういうことか」 といった文脈の共有が、実はとても足りていないと感じます。 医師になっても、どこで働けばいいのか迷う。地域の病院を引き継いだ院長が、経営と診療の狭間で孤独を感じている。住民は「医療がある安心」の意味を、じわじわと失っている。これらは制度や人材配置の問題であると同時に、「伝わっていない」「届いていない」ことの問題でもあります。 だからこそ、「PR」ができることは、意外と多いんじゃないか──そう感じたことが、FLOCALに関わろうと思った大きなきっかけです。 「伝える」ではなく「つなぐ」ためのPRを。 PRという仕事は、ただ情報を発信することではありません。ときには声なき声に耳を傾け、ときには社会の空気を編み直しながら、誰かの想いと、必要としている誰かとを、つなぎ直していく仕事だと思っています。Kushamiとして、私はこれまで多くの社会的プロジェクトに関わってきました。 医療の働き方改革、環境問題、教育格差、地方創生──さまざまな課題と向き合いながら、声を届け、関係をつくるお手伝いをしてきました。FLOCALが取り組むのは、まさにその「声」と「関係」の再設計です。地域医療に関わりたい医師の想い、地域で病院を守りたい人たち…