メンバーコラム

ニッチな医療業界で大ヒット!なぜ「細胞アート展」は生まれたのか

2025.06.19

細胞アート展は、なぜ「伝わった」のか

株式会社kushamiのPRプランナーの飯嶋健司です。
今回の記事では、2024年より企画が始まった公社)日本臨床細胞学会の周年事業企画「細胞アート展」についてお話ししたいと思います。

2024年夏から始まった日本臨床細胞学会が主催した「細胞アート展」は、累計3,000件以上の応募、倍率30倍のワークショップ、Webサイトは25,000人以上が訪れるなど、想像を超える反響を生みました。

これは一過性のバズではありません。
本質は、「専門性のあるテーマを、いかに一般生活者の感性に翻訳するか」という、広報・ブランディングの根源的な問いに対する、ひとつのアンサーだったのです。

「細胞診って、なんだ?」

本企画の発端は、日本臨床細胞学会の公益法人化10周年。
広報をどう設計すべきか。まず学会内で話題に上がったのは「新聞広告を出す?」という選択肢。しかし、認知を一時的に高めるだけではレガシーにはなりえない。ましてや“細胞診”という一般には馴染みの薄い検査手法を、どうやって生活者に届けるか。

私たちkushamiが相談を受けたのは、ちょうどそのタイミングでした。当初から提示された条件は明快でした。

  • 広報予算は確保済み(ただし、一般的な民間企業の予算に比べると高いわけではない)
  • 学会として社会に開かれた記念事業にしたい
  • 細胞診専門医・細胞検査士の存在を知ってもらいたい
  • できれば将来、医療職を志す子どもたちの種まきにもしたい

しかし、そのテーマを扱った広告表現やSNSキャンペーンは、少なくとも既存の手法では難易度が高い。

ではどうするか?

医療を「わかりやすく」ではなく、「親しみやすく」

「はたらく細胞」というアニメ作品が人気を集めていた背景も追い風でした。
とはいえ、私たちが最も意識したのは、“専門性の伝達”ではなく、“知るきっかけをデザインすること”でした。

難しいことを、わかりやすくしようとすると、浅くなってしまう。
むしろ、専門家の目に映る“リアル”をそのまま、感性で届けるほうが深く刺さるのではないか?

そんな仮説のもと生まれたのが「細胞アート展」です。

顕微鏡写真をアート作品として展示
 ⇒ 部位や病理によって異なる“細胞の美”を直感的に感じられる構成に。

画像

小学生〜高校生向けの細胞診ワークショップ
 ⇒ 採取から標本作製、診断までを一連で体験できる教育コンテンツに

画像
画像

Webサイトは“細胞の船旅”をテーマに
 ⇒ アニメーションと実画像を融合し、正確性と遊び心を両立。

すべてに共通するのは「感覚に訴えるUI/UX」の設計でした。

成功の鍵は「学会との共創」

このプロジェクトがここまでの成功を収めた理由は、企画そのものの良さ以上に、「学会のワーキンググループとの協働体制」にありました。

私たちが提示したのは、あくまで“設計図”です。
それを実現可能なものに磨き上げたのは、実際に現場で日々患者さんや細胞と向き合っている医師や検査士たちのリアルな知見でした。

  • このプロセスは実際どう行われているのか?
  • 子どもに伝えるなら、どこまで踏み込めるのか?
  • 誤解を招かないようにするために必要な注釈は?

議論は何度も繰り返されました。
しかし、そのプロセスがあったからこそ、「専門性を担保したまま、生活者に届く表現」が可能になったのです。

情報を“記号”で終わらせない

メディア向けの情報発信にも工夫を重ねました。
企画内容だけでなく、背景となる社会課題(医療職の担い手不足、正しい検診理解、リテラシー格差など)もパッケージ化し、報道関係者が「社会性あるテーマ」として拾えるように編集しました。

日本臨床細胞学会、細胞を“アート”で捉え、楽しく学べる「細胞アート展」開催(PR TIMES)

結果として、医療誌、教育誌、子育て系メディアなど多方面に波及。専門職が登場する“硬派なテーマ”でありながら、柔らかく伝える広報事例となりました。

「医療と生活者をつなぐ」これからの広報へ

本企画を通じて得た最大の知見は、

難しいことを正しく伝えるには、“翻訳”ではなく“きっかけ”が必要だ

ということです。

特に、スタートアップや学術団体が社会に向けて発信していく際、
「何を伝えるか」よりも「どう伝わるか」から逆算する設計が求められます。

「細胞アート展」は、そうした視点から設計し、学会と共創したプロジェクトの一例です。
この取り組みが、少しでも次の医療広報や、社会性ある発信のヒントになれば幸いです。

この記事を書いた人

飯嶋健司代表取締役・PRプランナー

X
facebook
note
Instagram

「メンバーコラム」一覧に戻る

サービス紹介Our Services

kushamiが提供するサービスを
くわしく知りたい方へ